金谷俊一郎氏のコラム
第4回:『スパイという存在と、その使命』
第4回:『スパイという存在と、その使命』

ところで、皆さんは「スパイ」というとどういう印象を持つでしょうか?
「自らの身分を隠して情報を盗み取ろうとする悪い人間」、「諜報活動のためなら、人を欺き、陥れることを平気でできる非常な人間」……。
日本におけるスパイのイメージはおしなべて悪いものばかりのようです。

しかし、当時の上海に暗躍していたスパイで、死後その功績によりソ連の英雄勲章が与えられたのみならず、
旧ドイツ民主共和国の切手の肖像画にまでなった人物がいます。

その人物の名はリヒャルト・ゾルゲです。
ゾルゲは、「閃光のナイトレイド」の舞台となる1931年の前年、1930年の1月、ソビエトのスパイとして上海に派遣されました。

ゾルゲがその死後も英雄として讃えられている理由は、彼の活動が一貫して、
「共産主義に対する侵略戦争を阻止する」
という使命をまっとうするためであったからです。

1917年に帝政ロシアが崩壊し、世界で最初の社会主義国家であるソビエト社会主義連邦が成立します。
社会主義国家の誕生は、周辺諸国に危機感を抱かせます。
日本が中心となっておこなったシベリア出兵もチェコスロバキア軍救援を名目としながら、実際はソ連に対する国家干渉でしたし、
国際的な共産主義組織であるコミンテルンを世界から駆逐させようという「防共」の動きも強まってきていました。

中国の国内でも中国共産党が成立し、1924年には第一次国共合作といって、
当時の中華民国政府は協力体制をとることを宣言しましたが、それも1927年に崩壊。
共産主義に対する包囲網はますます強まっていきます。

一方、中国国内では、ソ連の拡大に対する圧力や日本の大陸進出方針、ならびに中国共産党などを牽制するために、
西洋諸国の力を必要としていたと同時に、それら西洋諸国の侵略にも警戒しなければいけないという非常に難しい局面に立たされていました。

この混沌とした魔都上海で、ゾルゲは、当時大阪朝日新聞上海支局特派記者で、
共産主義を信奉していたあった日本人尾崎秀実(おざきほつみ)と出逢うわけです。
日本人スパイ尾崎秀実誕生の瞬間となるわけです。

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