- 「閃光のナイトレイド」脚本家&プロデューサー対談
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ついに放送が始まった「閃光のナイトレイド」
しかし、やはりオリジナル作品となるだけに、まだまだ謎が多いのも事実。
スタッフの皆さんはどのようなスタンスを持ってこの作品に取り組み、今後どのようなストーリーを描こうとしているのでしょうか?
メインライターの大西信介さんと、プロデューサーの大松裕さんに、お話をお伺いしました。大西さんが『閃光のナイトレイド』の脚本に参加されたきっかけを教えてください。
大西
以前『PERSONA- trinity soul-』のシナリオで参加していたので、そのご縁で呼んで頂きました。
その時はメインでやるとは思っていなかったんですけど(笑)。
大松
僕は松本監督と話をして、大西さんならまちがいないと思ってお呼びしました。
『PERSONA』ではまだポテンシャルを完全に発揮されていなかったような気もしたんですよ。
企画を聞いてどのように思いましたか?
大西
こういう時代のものを、しかもアニメでやれるのは滅多にない機会なのでぜひにと思いました。
この作品では、あまりアニメ的な奇のてらい方が求められていないのは分かりましたし、ストレートなストーリーラインで良いというのも聞いて、監督はきちんとしたドラマとして捉えているのが嬉しかったですね。
大松
監督が目指している方向は僕が当初思っていたよりずっとリアルだし、骨太な方なんだと思いました。
次第に作品の方向が見えてきて、ストイックだけども商業作品としてキャラ単体ではなく舞台や設定を使ってどう見せていくかを考えるべき作品だと思いました。
1931(昭和6)年という、私たちにとってなかなか馴染みの薄い時代ですが、
大西
ファンが見やすくなるような工夫はされていますか?
基本的には活劇的な面白さを重視してやっていますし、できるだけ分かりやすくと言うのは留意していますが、これは観て判断してもらうのが一番公正かな(笑)。
大松
絵作りでは”クラシックエレガント”なところをいかに出すかですね。オリジナルなので、どういう絵柄を見せていくのかがすごく大事だと思ったので、オンリーワンなところを出していければと考えています。
キャラクターのチームが男3人・女1人と、黄金律ともいえる組み合わせ。
大西
一方で、4人の使う超能力は割とベーシックなものですね。
リベラルな考え方を持つ葵と、保守的な葛、ちょっと世間知らずなお嬢様の雪菜、庶民の目から世間を見る棗……という面々。
わりとスタンダードな組み方、且つ、ポジションがはっきりしているので多様な組み合わせができますね。
あまりデフォルメしたキャラではないので、シリーズ全体を通して立ち上がってくるキャラクター性を見てもらえればと思います。
大松
この物語で描きたいのは、なぜ彼らはこんな能力を持ってしまったのかという原因を探るというところではないんです。
だから、必要最低限の能力でどういうドラマにしていくか重要だと思います。
ストーリーはどのように展開していくのでしょうか?
大西
前半は一話完結的な話で、後半は流れの繋がる話しにするというのは監督が最初から決めていましたね。
大松
結末はだいたい見えて分かっているんだけど、前半を作っている時は見ないフリをしていました(笑)。
もう後半の制作に向かっているのでラストを直視せざるを得ない状況ですね。
前半の一話完結的な話の中に、後半に向けての伏線が引かれていたりもするのでしょうか?
大西
ちょこちょこ入っています。
大松
伏線を張りつつ、縦軸で一話完結をするスタイル。
丸々一話完結の話もあるんですが、けっこう伏線は多いですね。最初から注意して見て下さい。
前半にキャラクター描写の積み重ねがあって、後半に解放されていくと。
大松
少しずつ回想シーンがありますが、基本スパイなので内面を語ることはないプロの世界。
それが徐々に本音を交わして解放されて行く。最初も注意ですけど最後まで必見だと思います。
監督はすごく映画にお詳しく、大西さんも負けず劣らずお詳しいとのこと。
大西
作品作りにおいてそのコンビネーションが発揮された実感は?
とにかく、松本監督は「この映画のこのシーンが……」と、具体的に説明することが多く、圧倒的な量の作品を知っているんですよね。
私が知っているのは自分の若い頃の作品に集中しているのですが、監督はどの時代のも満遍なく観ていて、話を作るきっかけやアイディアになるのはそこから生まれてくるので助かります。
大松
僕から言わせてもらうとメチャメチャ噛み合っていますよ。最近の演出家さんだと、演出家にもかかわらず映画を見ていない人がけっこう多いんですよね。対する大西さんは、監督の好きな市川崑作品とかATG('60年代から'80年代にかけて作られた若者向け芸術映画作品群)とか……、映画の話を出して噛み合わなかったことはまずないですよ。
ちなみに今回の制作において、「これを観ておいて」と挙げられたものは?
大西
「上海を舞台にした作品はどんなの観たことがあります?」と聞かれて、最初は『太陽の帝国』('87年)ぐらいしか思いつかなかったりして。
『ラスト、コーション』('07年)と『上海の伯爵夫人』('05年)は観ておいてくださいというところから始まりました。
大松
僕らが参考作品としている『戦争と人間』('70~73年)ですが、大西さんは企画が始まる前にはすでに観ていましたよね。
大西
リアルタイムで観ていましたね。でも、映画だけでなく本からの知識も大事。昭和6年のことなんで、学生の時以来初めて読むテキストも多かったですね。近代史の作品を扱う上で気をつけたことは?
大松
思想的に完全に中立に立っているかは分からないけど、歴史を勉強すればするほど絶対的な正義も悪もないなと思うんです。そこにあるのは厳然とした事実だけ。ただ、基本はエンターテイメントなので楽しんでもらいたいと思って作っているし、歴史的な視座をこういう風に持ってもらおうという気持ちは全くないんですよ。僕が個人的に興味があるのはその当時生きていた人たちの気持ちとか空気感。具体的なことで言うと、満州事変があって、そこに派遣されていった関東軍の人たちの気持ちはどんな気持ちだったのかなということなんですよね。個人の視点から大きなことを語っていければなと思います。
大西
できるだけバイアスのかからない形で歴史を見ていこうという気持ちはあります。先の『戦争と人間』という映画などは監督も左翼系の方ですし、軍や財閥は悪で、民衆は被害者であるという図式にシンプルに落とし込みすぎるきらいもあった。公開当時はそう描かざるを得なかったという状況があったのも確かですが・・・。そういう部分も今回はできるだけ先入観の無い視点から見ていければいいなと思って手がけています。
大松
取材旅行に行くまでは、中国の人々や中国という国に具体的がイメージはなかったんですけど、行ってみて色々なことを具体的に感じることが出来ました。どこの人が良くてどこの人が悪いというのはなくて、作品を通じてあの時代を知ってくれればと思います。日本と中国の関係というと大げさなんですけど、せっかくこういうモチーフなので良い掛け橋になればなと思います。
見どころを挙げるとしたら?
大西
映像になるとこちらが頭で考えた以上にやはりアクションがすごく、まずそこを楽しんで貰えれば。ドラマとしては4人の男女がどういう風に歩いてきたかを楽しんで感情移入をして見てもらえればなと思います。
大松
彼らはスパイとして活動していきますが、スタンスがそれぞれ違います。最終話に向けてどういう関わり合いをするのかが、大きな見どころになると思います。画面については少しの狂いもなく当時の生活を描写するようにがんばっているので、異国情緒豊かな描写も楽しんでもらえればと思います。